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GODZILLA怪獣惑星と、ある意味最もゴジラシリーズと相反する脚本家・虚淵玄の作家性

GODZILLA 怪獣惑星が公開されて一週間が過ぎた。いくつかレビューをみたが、その中で本作の終盤の展開が「脚本が虚淵玄らしい」という評価を読んだ。が、僕はちょっと違う見方をしているので、それを書こうと思う。

終盤の展開、つまり倒せたと思っていた敵だったがもっと強い敵がいた、という展開は別に虚淵玄らしさだとは思わないし、驚きもしなかった。三部作の映画であっさりタイトルロールが殺されるわけがないのだ。本体は他にいるに決まっている。

まあ、そんな僕の感想はどうでもいい(かなりひどいことを書きそうだし)。僕は虚淵玄の作家性は次の三点に集約されると思っている。それは1. 文明への信頼、2.論理を積み重ねた物語の展開、3. 倫理を踏みにじる根源的な悪だ。

どういうことか説明しよう。僕が最初に触れた虚淵氏の作品はFate/Zeroだが、当作の主人公衛宮切嗣は魔術師でありながら現代的な火器を駆使して魔術師を殺めるものと設定されている。剣と魔法の物語に銃と爆薬での決着を持ち込むのがこの作品である。 翠星のガルガンティアでは「人間らしさとは知性をもって文明を作り出すことであり、生物としての幸福と快楽を追求するだけなら知性は不用であり、人間としての尊厳を保つために知性と文明を否定する存在とは戦わなければならない」と文明を否定することを断罪してきた。 PSYCHO-PASSにおいて、主人公常守茜は人類が生み出したあるいみ叡智の結晶である裁定システムかつ悪の塊であるシビュラシステムを「今の世の中がシビュラ抜きでは成り立たないのも事実」と肯定し、「きっと新しい道を見つけてみせる」とさらなる文明の進歩を目指していく。

また、虚淵氏は「"理にかなった展開"だけを積み上げて構築された世界は、どうあってもエントロピーの支配から逃れられない(フェイト/ゼロ 1 第四次聖杯戦争秘話)」と自身の作風をFate/Zeroの時点では嘆いていたが、魔法少女まどか☆マギカでは、論理で宿命を逆手にとってやりこめる中学生の姿を描き、幸運な結末を導いた。さらに、翠星のガルガンティアでは論理を積み重ねた結果、救いを得た物語と破滅へ辿り着いた物語の両方を描いている。PSYCHO-PASSは感情を制御して論理に基づき法と正義を執行しようとする女の物語である。

そして、騎士道精神を謳って無駄に命を消耗させた輩や、魔術師の探究心といった下らぬもののために無辜の人々を虐殺して厭わない輩どもをFate/Zeroでは糾弾し、魔法少女まどか☆マギカでは少女たちの絶望による宇宙の維持を神の力でねじ伏せ、集団を恐怖で支配した人工知能翠星のガルガンティアでは退場を言い渡し、PSYCHO-PASSでは大義のために多くの人間を殺した犯罪者を容赦なく射殺した。楽園追放でも悪は「嘘つき」として明確に倫理的観点から批判されている。

僕は世間一般が何を「虚淵玄らしさ」と呼んでいるのか、よくわからないが、あまり本数を見ていない僕からすると、以上の三点が虚淵作品の特徴である。

さて、虚淵氏がゴジラシリーズの脚本を書くということは、ある意味シリーズの根底に流れるものと、彼の作家性と真っ向から反するということである。ゴジラシリーズは当初から「人間の科学文明に対する警鐘」と見做されているフシがあり、もちろん第一作でも「もし人類がこのまま…」と山根博士が危惧を表明している。他にも例えばゴジラVSビオランテは最終盤のモノローグなどで文明を批判し、VSメカゴジラでも科学よりも命あるものが勝つんだと(よく考えたら意味不明なことを)言っている。2000ミレニアムも科学者たちが科学の進歩を批判するなどそういった主題が明確に打ち出されているし、シン・ゴジラは比較的オープンな姿勢とは言え、完全にそういったものを持たないわけではない。尾頭ヒロミは本当に怖いのは私たち人間かも、となんの脈絡もなく突然言いだすのだ。当然、ゴジラ対ヘドラもその系列にはいるだろう。文明の進歩は危険を招く、という態度が特に平成ゴジラには顕著であるが、本作の脚本を担った虚淵氏は繰り返し文明を肯定してきたのだ。

一方、GODZILLA 怪獣惑星は、論理を積み重ねてゴジラを駆除するのがお話の芯となっている。そして、この駆除作戦は明らかに文明の上に成り立っており、そこに対する憂いは微塵も感じられない。

となると、残る虚淵氏の作家性とは倫理を踏みにじる根源の悪である。冒頭、その影が見えたが、それは簡単に否定されてしまった。ハルオが批判した棄民は、当人たちの切実な願いと利害が一致してしまったからだ。

しかし、GODZILLA 怪獣惑星では文明を否定することを仄めかしたものがいる。僕は、彼こそが本作の「倫理を踏みにじる根源的な悪」であり、その悪行とゴジラは密接に関わっているのではないか、と思っている。

そして、虚淵氏の作品はある特定の歴史上の大きな出来事から構造を切り出したものが多い。PSYCHO-PASS魔法少女まどか☆マギカ翠星のガルガンティアがそうだ。その路線で行くのなら、おそらくメトフィエスは「CIA」という役どころになるのだろう、と想像している。